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植物の毒と薬 [読書]

 道端に曼珠沙華が満開です。いっぺんに秋らしくなりました。こどもの頃、彼岸花は有毒だといって、あまり触れなかったように思います。植物には薬になったり、毒になったりするものが多くあります。


 ケシから得られるモルヒネ、柳の樹皮からアスピリン、カフェインやニコチンといった嗜好品、心臓のジギタリス、神経作用のアトロピン、抗がん剤のビンクリスチン、抗インフルエンザ薬のタミフル・・・もちろん漢方薬は草根木皮がほとんどです。トリカブトという有名なのもあります。


 斉藤和季『植物はなぜ薬を作るのか』(文春新書)は植物がなぜ、こんな色々な物質を溜め込むようになったのかについて、解説しています。


 地球上で最も大量に存在するタンパク質は、植物の光合成に関わるルビスコという酵素タンパクだそうです。ホウレンソウ 100g に 1g も含まれているそうです。また、地球上の植物種全体では 20万個もの植物成分があるそうです。


 植物は藻類から数えると 30億年の歴史があり、それだけ突然変異と進化のチャンスがあります。動かない植物にとって、捕食者、病原菌、他の競合する植物との戦いに負けなかったものだけが生き残っています。外敵への防御などのために強い生物活性をもった物質を生合成するように進化の圧がかかっています。強い生物活性はつまり、薬にもなり得、植物成分は薬の宝庫ということになります。


 彼岸花は捕食者を寄せ付けない毒を持っている・・・むかしの人は田畑の畦道に曼珠沙華を植えて、害虫から作物を守ることを知っていたようです。また、球根を水に晒して毒を抜けば、デンプンは飢饉の備えになります。 秋の風物詩にもそれなりの物語があるようです。


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寅さんの背景 [読書]

 このあいだ出かけた富山の八尾という町は、寅さんが啖呵売していそうな雰囲気ですが、映画の舞台にはなっていないようです。富山県は一度も寅さんと関係がなかった、数少ない県のひとつだそうです。


 映画「男はつらいよ」の第一作が公開されたのは 1969年8月だそうですが、その後、1995年まで 48作もありますが、一度も映画館でみた記憶はありません。折にふれテレビで放送されているのを見る程度です。


 川本三郎『「男はつらいよ」を旅する』(新潮選書)は沖縄から北海道まで、ロケ地をめぐる紀行の書です。


 <実は、沖縄にはこれまで一度も行ったことがない。・・・行きたくなかった。昭和十九年(一九四四)生まれの人間にとっては、沖縄は「戦争の悲劇の島」というイメージが強く、そういうところへ観光に行くのは、なんというか、気が引けた。>


 <第一作が公開された一九六九年四月、私は朝日新聞社に入社し、「週刊朝日」に配属された。・・・当時の映画ファンのあいだでは大島渚やゴダール、あるいは東映やくざを語ることが盛んだったから「『男はつらいよ』が好き」とはなかなか言えなかった。>


 関西に住む人間にとっては、葛飾柴又といっても土地勘がありません。地図をみると、上野から常磐線に乗って、荒川と江戸川のあいだあたりです。江戸川をわたるともう、千葉県です。東京の下町とはいえず、<市中から遠く離れた「近所田舎」>だそうです。柴又と松戸を渡すのが「矢切の渡し」です。


 概して初期の、寅次郎が元気で無茶をする頃のが、おもしろいと思います。年がいくと少し痛々しくなります。知っている町が出てくると、二倍楽しめます。大洲とか高梁とか丹後半島とか・・・。


 そういえば 1969年から 1995年までというのは、安田講堂から阪神淡路大震災までという時代区分だったのですね。「奮闘努力の甲斐もなく、今日も涙の日が落ちる」。


 


 



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ホモ・サピエンスの嘆き [読書]

 台風が近くを通過しました。7月4日にも頭上を通っていったので、今年は当たり年のようです。前回は1時間ほどの大風でしたが、今日は6時間の雨風でした。帰宅時間に重なって、駐車場から玄関までの間にずぶぬれになりました。


 関東以北のひとは新鮮で元気な台風をあまり知らないかもしれません。また奄美や九州のひとは、出来たての強暴な風雨に違った印象をもっているのかも知れません。台風にもなにか表情があります。以前はジェーンとか名前をつけて呼ぶのが普通でしたね。


 いま読んでいるのは、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(河出書房新社)です。新聞のコラムで引用されていた文句がおもしろくて買ってみました。考古学や遺伝子解析の成果をうまく整理して、現生人類のなりたちを上手に、シニカルに物語っています。


 <農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。・・・犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ。>  狩猟採集時代と違って、ヒトは汗水たらして一日中、延々と働き続けないと暮らしていけなくなった。


 <ニワトリほど広く行き渡った家禽はこれまでいなかった。・・・進化の狭い視点に立つと、種の成功はDNAの複製の数で決まるので、農業革命はニワトリや牛、ブタ、ヒツジにとって、素晴らしい恵みだった。>  しかし、10 億頭以上にDNAを増やした牛たちより、絶滅の瀬戸際にある野生のサイのほうが、満足そうにみえる。


 夏の読書に適しています。簡潔で、意外性もあって、適度にユーモアがあります。 目を酷使して、体力と時間を浪費し、さしづめ印刷物に使役されている家畜のように、自分が思えて来ます。





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夏を流す [読書]

 今朝、玄関ドアを開けるとセミが一斉に鳴いていました。去年はいつ聞いたのか憶えていませんが、一昨年は7月9日でした。蝉しぐれにつつまれると梅雨があけた気になります。


 明治26年7月19日、26歳の正岡子規は芭蕉の足跡を追って東北へ向かいます。上野から青森まで、明治24年に鉄道が開通したそうです。『子規の音』(新潮社)の森まゆみさんは、その子規の行程を車で追いかけています。


  みちのくへ涼みに行くや下駄はいて (子規)


 その頃、石川啄木は7歳で渋民尋常小学校におり、野口英世は16歳で会津若松にいました。樋口一葉は21歳で下谷龍泉寺町で荒物や駄菓子を売っています。それぞれの人の、その後を思うと胸があつくなります。


  ずんずんと夏を流すや最上川 (子規)




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不思議なベストセラー [読書]

 今年の始めごろから、本屋さんの店頭に呉座勇一『応仁の乱』(中公新書)が大量に平積みされています。三十万部をこえるベストセラーになっているそうです。


 そんなに売れている本には興味がないなぁと横目でながめて通りすぎていましたが、なぜこんな地味な歴史の新書本が、そんなに売れるのか・・・不思議でした。


 何ヶ月も平積みされている傍を歩いているうちに、なぜこんな普通の中公新書がいつまでも売れるのかという疑問に、ふと魔がさして買ってみました。


 読み出してみると、これはまた、奈良・興福寺の僧侶二人の日記を中心にして、応仁の乱のいきさつを懇切丁寧に詳述した歴史読本でした。登場人物が多く、なじみのない名前の連続で、一日数ページ進むのがやっとで、辟易しました。300ページの新書にひと月かかりました。


 読了して、ふりかえってみて応仁の乱とは何だったのかと考えてみましたが、なんか分からない長い戦乱だったんだなという感想が残っただけでした。


 とても三十万人ものひとが、読んだとは想像できません。ほとんどの人は数十ページ位でなんだこれは・・・と本箱に仕舞ったのではないでしょうか。


 これはこの本のせいではありません。良い新書だと思います。なにかの間違いでベストセラーになっただけで、もし読めなくても、間違って買ってしまったひとに責任があるだけです。ひっそりと新書棚に並んでいれば問題はなかったはずです。



 

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楽しみな本 [読書]

 先日、本屋さんの棚を眺めていると、森まゆみ『子規の音』(新潮社)という本がありました。手に取ってみると


 くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる


という歌から始まっていました。なんとも気持ちのよい書き出しです。早速、買ってきました。

 地域雑誌「谷中・根津・千駄木」が出発点の森さんにとって、根岸で暮らした正岡子規は地元のひとでしょう。『鷗外の坂』や『彰義隊遺聞』などを書いてきて、満を持して子規に取り組むという感じです。読み始めるのを楽しみにしています。


 今は、つい読みだした呉座勇一『応仁の乱』(中公新書)にてこずって、遅々として進みません。まさしく安眠のための寝る前の読書になっています。




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ほんとうのこと [読書]

 あたりまえのことですが、<歴史家の叙述する歴史もまた、フィクションではないものの、「物語」にはなってしまう。>と、橋本陽介『物語論 基礎と応用』(講談社選書メチエ)も書いています。


 前回の邪馬台国をめぐる歴史も語られるとともに、物語化から逃れられません。


 今日の毎日新聞を読んでいると、中森明夫という人が、<ユヴァル・ノア・ハラリのベストセラー『サピエンス全史』によれば、実は人類が繁栄したのは虚構を信じたからだという。神も国家も法律も貨幣も人類が作った虚構である(動物には意味がない)。>と引用して書いています。うまいこと物語るものです。


 虚構でしかほんとうのことは表せないと、何十年も虚構に親しんできましたが、「ほんとうのこと」というもの自体が虚構だったんですね。 虚構だからこそ虚構でしか現せない。


 「本当のことを云おうか」という詩の一節が谷川俊太郎にありました。そういえば、はじめに言葉ありきなのでした。





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大国主神の国譲り [読書]

 昨夜はモチガツオを食べました。刺身もタタキも食感がもちぃとして独特です。外見はふつうの鰹と区別は付けられず、包丁を入れてはじめて分かるそうです。鰹釣りの船は午後に帰ってくるので、夕方に新鮮なカツオが食べられます。春になるとカツオの刺身が楽しみです。


 去年から出雲のことが気になって、ちらちらと読んでいますが、岩波新書にも2013 年に『出雲と大和』(村井康彦)という本がでています。一読、ビックリするような内容でした。


 <邪馬台国は出雲系の氏族連合によって擁立された王朝であった・・・邪馬台国と大和朝廷とは繋がらない・・・邪馬台国や卑弥呼の名が『古事記』や『日本書紀』に一度として出てこない・・・三世紀前半、使者を帯方郡、さらには洛陽にまで派遣して魏王から「親魏倭王」の称号を受け、銅鏡百枚ほか数々の品物を下賜された倭の女王が大和朝廷の祖先であれば、その人物を皇統譜に載せてしかるべき・・・卑弥呼が没した頃、倭国の争乱に乗じてあらたな勢力が東に向けて移動しはじめ、やがて邪馬台国は激しい攻撃にさらされる・・・邪馬台国最後の状況は、じつは『日本書紀』が克明に記録していたのであるー。それがいわゆる「神武東征」に他ならない。>


 なぜ、三輪山(シロウサギの大国主神)をはじめ大和に出雲系の神が多く祀られているのかが理解できます。


 <・・・記紀にいう「国譲り」とは、葦原中国(=地上世界)を作り治めていた大国主神が、天照大神の命に従い、その統治権を天孫に譲るというものであった。>


 神話と歴史が仮説によってみごとに繋がり、疑問が解けていきます。そうかもしれない、そうでないかもしれない。歴史の本を読む楽しみに満ちています。


 カツオといえば神社の屋根には鰹木というのがのっかっています。むかしの人もカツオを食べていたのでしょう。



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百年前のこと [読書]

 野山は新緑で生気に満ち、街路はツツジが満開です。しかし、ここのところう風が強く、うららかな陽気の日が少ないようです。


  てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。 (安西冬衛)


 今年はロシア革命から百年ということなので、最近でた岩波新書『ロシア革命 破局の8か月』(池田嘉郎)を読んでみました。かってソ連という国があったことは子供たちはもう知らないかもしれない。


 「運命の年、一九一七年には二度の革命が起こった。二月革命と十月革命である。二月革命で何が起こり、どのようにして十月革命に立ち至るのか。これが本書の叙述の内容になる。」とのことで、「言論の自由、人身の不可侵、私的所有権・・・・・同時代の西欧諸国がともかくも備えていたものを、ロシアにも揃えようという」二月革命後の「臨時政府の試みはあえなく挫折した。」 十月革命に行きつく8か月を丹念に追いかけています。


 歴史の吟味は滋養になります。最近、きな臭くなってきた半島情勢も、どこかで百年前とつながっているように思えます。


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年年歳歳 [読書]

 四月になっても肌寒く、桜の開花も遅れているようです。今晩は豆ごはんにイガミの煮付けとヒイカを食べました。食卓から春になった気分です。

 新しい年度が始まり、歳歳年年人同じからずの時期です。こうして、また一年、いろんなことを忘れたり、憶いだしたりしながら暮らしていくことになります。

 いまは堀江敏幸『音の糸』(小学館)を読んでいます。新聞の書評でおもしろそうと思って、何週間か何軒かの本屋さんで探しましたが無く、しょうがなくアマゾンでクリックすると、翌日に届きました。

 だれがどんな音楽にどんな思いをもっているのかを読むのは、音楽を聴くのと同じくらい興味深いものです。それでも、やっぱり本は手に取って中をペラペラと眺めてから買うかどうかを決めたいものです。

 明日からは暖かくなるそうですから、桜が一斉に開花し始めるかもしれません。


 

 

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